贅沢な夜に思いを馳せて。 / K.ITO











人影すら見る事の無かった平日のCOELACANTHだけど、ありがたいことに最近はちらちらと平日でも訪ねて頂けることが増えてきた。


その一方で暇を理由に馬鹿みたいな時間をかけて文章を書くことが出来なくなってきた。ありがたいことに。


嬉しい疲れのせいか呆れられるほどにやっていたゲームもやる気力がすっかりなくなってしまって、それでも夜型の生活に変わりはないものだから、本を読んだり映画を観たり、超低レベルなところから英語の勉強をしたりというふうに過ごしていたのだけど、ふと、この時間をBLOGにあててみてはいいのではないかと今更ながらに思い立ちました。

たまに酔っ払って書くInstagramのキャプションが長たらしくなってしまうから丁度良い気がする。


感情を煽る為に酒を呷る。とまではいかないけれど、アルコールを軽く身体に沁み込ませて(終盤には結果重くなるんだろう)、浮かれた気持ちで書いてみようではないか。


このBLOGを読んで頂いているほどの方であれば、多少の醜態を晒しても面白がって遊びに来てくれそうなのでやってみます。出来ることなら浮かれた気持ちでお付き合い下さい。













お客さんとお話していると時折「このお店は知らないブランドがあって面白い」とか「新しいブランドが知れて嬉しい」といったお言葉を頂戴することがある。


それはとても嬉しいお言葉で、昔から人との違いを求める傾向にある自分の性分がお店にも現れているように思う。

超メジャーだったり多数の取り扱い店舗があるブランドには知らぬ間に消極的になったりしてしまい、自ずとニッチなブランドばかりを探しているし、トレンドど真ん中にあるようなカテゴリーの古着には目もくれず、ひたすら一点物感だけを追い求めてしまう。


そういう大衆認知下にない物は、右に倣えが当たり前となるSNS社会では当たり前に売りづらくて、その逆行を楽しみながらもお客さんへの伝え方に毎日頭を抱えている自分の商売下手なところは我ながら馬鹿だと呆れてしまう。


ただ、僅か一年と少しの営業日数の中でも「なんか売れそう」って気持ちでバイイングした物は見事にスベるという結果が残って、反面で半ばリスキーであっても純粋に自分が魅力を感じる洋服の方がお客さんには伝わるということがわかったので、この商売下手な自分と向き合っていくしかないんだなということがわかりました。


早速酔っ払ってんじゃねーなんて叱られそうなくらいつらつらと脈絡もないことを綴りましたが、まだ平気です。


なにを言いたいかというと、今季も殆ど誰も知らないブランドを扱いますよということ。








それがK.ITOというブランドです。設立は2018年。

デザイナーは井藤一男さんというキャリア40年を超えるベテラン中のベテラン。一般的なサラリーマンであれば定年を迎えているお歳なのですが、洋服作りを続け、ブランドを設立し、今もなお毎シーズンでコレクションを作り続けているエネルギーには脱帽します。


そういえばうちの親父も定年を目前に退職して、「今までやりたくない仕事を続けてきたから、これからはやりたいことをやる」などと言い出し、専門学校へ通って3D CADを覚えたり、一般需要のない車を製造する会社に再就職した。昨年末にはブドウ農園をやりたいから、儲かってないのであれば一緒にやれという意味のわからないヘッドハンティングを受けたのですが、何歳でも何かに没頭している人間は格好良いものですね。
(この勧誘にはもうちょっと夢を見させてくれと断りました。誰か僕の代わりに富山県でブドウ農園できる人材を募集しています。)


まだ一杯も飲み干してないのに話が逸れすぎた。



その大ベテランのK.ITO。ニッチであることは一種の個人的な興味を唆る要素ではありますが、だからといってそれだけでお店に並べるほど僕も馬鹿じゃない。


そのニッチさを大きく超える洋服としての美しさがあったからCOELACANTHに並んでいます。










このテーラードジャケットを見てほしい。


バブル絶頂期のその当時、井藤さんが夜遊びに繰り出す時に着ていたというジャケットから着想を得た一着。


まず特筆したいのは無双仕立てというところ。

無双仕立てとは、表地をそのまま裏まで引き返して、共地の裏地として仕立てること。一般的な仕立てでいうと裏地より表地のほうがコストがかかるのは当たり前でとにかく値段が高くなる。たまに高級コートに見られる仕立てなのだけど井藤さんはこれをテーラードジャケットで仕立てた。

今だろうが昔だろうが、無双でテーラードを仕立てるってそうあったことじゃない。値段は上がるしおそらくそんなに求められるものじゃない。でも井藤さんの美学の中に、無双仕立てのテーラードジャケットがあった。










生地は強撚のコットンギャバジン。艶かしく上品に光を返し、心地良いハリと滑るような手触り。Aqua Scutumのコートを彷彿とさせるような生地。


やや多めにボリュームを取ったショールカラーのラペルは綺麗な弧を描き、丸い襟に反して対立するように角を立てたスクエアカットの裾。ショールカラーだったらフロントカットも丸めるでしょう、普通。そんなありふれたスタイルに囚われないところが格好良くて新鮮に感じる。不思議とバランスも美しい。更にこの襟は、立ててラペルホールを留めると印象を大きく変える。










立体裁断の湾曲したアームは美学に反するそうで、代わりにダーツを入れて身体へ沿うようなアームを作っている。無双仕立てによる裏地の美しさと相まって、ハンガーで吊った姿もとても美しい。自宅のクローゼットにかけたとき、友人の家で脱いだ時、飲み屋で壁にかけた時ですら美しい。


生地を綺麗に折り返した袖先は、袖を折ったり捲ったりしても上品に見える。ダブルのスラックスみたいに少しだけ重たい顔つきに変わる。









肩の作りはセットインを裏切ってラグラン。ここにも遊び心たっぷり。

一枚袖のラグランスリーブだけど肩がクタッと潰れすぎないよう、それでいて浮きすぎないように、ここにもほんのりとダーツを入れて形を整えている。後ろから肩周りだけ見ると本当にコートを着ているよう。生地と相まってそれくらいの迫力がある。

立体になったときの美しさを追求し続けてきたパターンの技術は、見れば見るほど驚いてしまう。









ほんの一見だけではクラシックに映るんだけどどこか垢抜けていて違和感を感じる。なんだろうなって見ていくと各所で遊び心とか天邪鬼さが見つかって、ほうほうと視線で追いかけていくといつの間にか魅力に飲まれていってしまう。


クラスでは全然目立たないし昼休みにはずっと本読んでて、でも美術の時間にはすごい絵を描き上げたり、眼鏡を外すと実は美形だったりで女子にアンケートとると不思議とモテてる男子っていませんでした?そんな感じ。いや、いないか。

店内でも最奥のあまり目立たない場所に陳列しているんだけど、生地の美しさ故か、違和感故か、不思議と手に取ってもらっているからすごいなーと思っています。










ジャケットの他にはニットシャツとカーディガンが入荷しています。スーピマコットンで仕立てたとても綺麗な編み地は、#000000みたいな限りなく原色に近い深さの黒。スーピマだからできる深さ。黒さ。シルクみたいな艶におっとりしてしまう。最高級超長綿最高。ニットウェアなのに補強布が縫い付けられていたり、力ボタンが取り付けられていたり。

主演になるには寡黙すぎるアイテムだけど、だからそれなりにではなく、流行り廃りのないベーシックウェアだからこそ長く使い込めるように作り込まれています。


もっと力説したいけど、僕はもちろん読んでくれている方もそろそろ疲れてきそうなので、店頭でお話しさせて下さい。








K.ITO - 23SS-B-2 - C.Gabardine shawl collar tailored jacket, Navy.
price 77,000 yen (tax inc.)



テーラードジャケットという古い歴史のある洋服で、クラシカルな威厳は残しながらも、既視感からは外れるような新鮮な遊び心を宿した作品。

33歳の僕には当然バブルの賑わいや贅沢さは記憶にないけれど、同世代や若い世代にはそんな時代に憧れながらこのジャケットの美しさに包まれて欲しいし、その時代を経験した人であれば懐かしさに思いを馳せながら当時のように楽しく浮かれ気分で着て欲しい。


ネームバリューという一種の記号を追いかけるのもファッションにおける大きな楽しみだけれど、記号を追いかけているだけじゃ絶対に出会えないK.ITOの素晴らしい仕立て。


一度袖を通してみれば、魅力は自ずと伝わるはず。


最たるものはメインストリームの外側にあるというのは食にも音楽にも車にも芸術にも通づるけれど、洋服だってそうなんだって気付いて頂けるはずです。


それではおやすみなさい。




※昨夜の感情と勢いは残しながらも、流石にシラフで手直ししています。






𝐂𝐎𝐄𝐋𝐀𝐂𝐀𝐍𝐓𝐇


東京都渋谷区渋谷2-3-3 青山Oビル 2F


[ mon, tue, fri ] open 13 - 19

[ sat, sun, holi ] open 12 - 19

[ wed, thu ] appoint only.


19-23時のお時間でも事前連絡を頂ければご来店頂けます。

普段お時間の合わない方はお気軽にご連絡下さいませ。

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