美しい革の靴 | Post Production

 




良い靴は外へ出かける理由をくれる。

良い革は我が子のような希望を齎せる。

どこへ行こうか。どんな顔に育つだろうか。

生きていく為の必需品ではないけれど、限りある人生を謳歌する為には大きな価値を与えてくれる。





今年の春頃、satouのお取り扱いの継続やYuta Matsuokaとのお取引が決まった折に、大人びた洋服と共に良い革靴を並べたいという気持ちが芽生えた。それは「いつか」という未来形のとても漠然とした気持ちで、必死にブランドを探すというわけでもなく、「良い物との巡り合わせがあった時は」と焦ったものではないのだけれど。



ただ、「引き寄せの法則」のようなものが実在するのだろうか。そう時を経たずして、とても綺麗で良い顔の革靴を履いたお客様がいらっしゃった。

あまりにも良い革だったので我慢ならずにブランドを聞いてみたところ、"Post Production"というブランドで、二つほど隣のビルで展示会を開催しているのだという。



早速ブランドを検索し、ラインナップを拝見し、その美しさに胸を打たれ、玉砕覚悟でアポイント。

まだオープンして半年すら経っていないCOELACANTHに取り扱いの許可が降りるとは到底思えなかったけど、我慢ができなかった。なによりもとにかく実物を見て、足を通してみたかった。



時を同じくして、Post Productionのデザイナーも別のお客様から当店のお話を聞いていたらしい。実は古着好きだということで元々来店を予定されていたらしく、メールでの返信ではなくご来店でアポイントの快諾を頂いた。



展示会当日、初めて足を通すPost Production。紐の無い、ローファータイプの靴でありながら、凄まじいフィット感に驚いた。

僕も今まで、所謂「高級靴」と言われる革靴は何社か愛用してきた。アメリカやイギリス、フランスと10社ほどだろうか。古靴を含めればもっと沢山の靴を履いてきたし、未だに自宅のシューズボックスには沢山の革靴が並んでいる。



その上で、Post Productionの靴はそのどれも以上に美しい革で、優雅で、履き心地が良かった。



「日本の靴ってこんなに感動するんだ。」







そうして、今季よりお取り扱いをさせて頂いている、Post Productionというレザーシューズブランド。


「玄関先で靴紐を結びたくない。」


Post Productionのプロダクトはそんな純粋な動機から生まれる。

故に、ラインナップされる製品には靴紐を一切設けないという、デザイナーの我儘をしっかりと投影している。



デザイナーの甲斐さんは、国内でもトップクラスのクオリティを誇るであろう革靴ブランドを出身としていて、靴への深い考察、優れた生産背景を持ち、革の目利きに卓越している。



この記事のタイトルを「美しい革靴」ではなく「美しい革の靴」としたのはそういう理由がある。見惚れてしまうほどに美しい革。







今回、COELACANTHでセレクトさせて頂いたのはブラックカーフの”Norm”と”Mil-Boots”。



良い革靴と言えば、まずはカーフ。良い革靴の登竜門的でもあり、エイジングの奥深さは最終地点にもなり得るじゃないだろうか。



加えてPost Productionで用いられるカーフは、僕が今まで目にしてきたもののどれよりも、美しさと逞しさが共存しているように感じまる。



写真でも伝わるくらい、きめ細やかで美しく光る銀面。
肉厚で堅牢、それでいて硬すぎず、弾力を感じるような肉感。



履き慣らしから、5年、10年、20年と履きこむことで、皺が刻まれていく。
経年変化を想像すると、好奇心に歯止めが効かなくなってしまう。そんなカーフ。







"Norm"は、艶やかで美しいプレーントゥと、相反するように力強いラインを見せる靴。



オペラパンプスのような華麗さと、ローファーさながらのボリュームや無骨さが溶け合ったような印象。一目見た瞬間から心の中でほぼバイイングが決まっていたほど、僕好みの靴。



Post Productionのシューズの特徴として一つ、ヒールの高さがある。

やや高めに感じられるヒールは一見女性的に感じられるけれど、一度足を通せばトラウザーから覗く優雅さに惚れ込んでしまうと思う。

そのまま鏡の前に立てば、すっと伸びた立ち姿に新しい自分を見つけられる。



履き口の広さとは対照的なフィッティングの良さも大きな魅力。
するりと履けるのに大きく踏み込んでも踵が浮くことのないよう設計された木型。



デザイナーの我儘を投影したPost Productionの美学がここに宿っている。







そして、大判の革が見つかったからこそ形になった"Mil-Boots"。



ブーツをあまり履くことのないデザイナーが、自分が履きたいブーツはなんたるかを集約させた傑作。

メンズブーツにありがちな野暮ったさや粗野な印象は削ぎ落とし、シャフトは細く美しく、それでいて足入れを考慮しゴムの面積は広めに。

並べているだけでもオブジェのように美しい。玄関ではなくリビングに飾りたいくらい芸術染みて見える。誇張じゃない。



足を通せば、それはもうPost Productionに飲まれてしまう。窮屈さはないのに安心感のある履き心地。

今の季節はウールのトラウザーなんかを少し浮かせて合わせてほしい。素朴さと無機質さの対比が、よりこのブーツの美しさを引き立ててくれるはず。

神は細部に宿るような、絶妙な匙加減。一度でいいから足を通して欲しい。









僕もまだ履き始めて1月ほど。まだまだ引き出せていない魅力もあるのだと思う。

それでも、履いた日には毎回鏡の前で見惚れてしまうし、少しずつ「自分の物」になっていくような感覚。


来年の今頃には全然違う顔つきをしながら、馴染み深くて不可欠な存在になっているんだろうな。


生きていくことに必要な物ではないけれど、愛でることでなくてはならない存在となるPost Productionの靴。


そういう楽しみの大切さを改めて感じさせられました。



ほどよくユーモラスに綴られたプロダクトへの拘りやシューケアのあれこれなど、Post Production公式のNoteもとても面白いので、興味のある方はぜひ。



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